「ゲーム」と「オペラ」が平等な関係として融和する 全く新しいジャンル “東方”オペラオーケストラ『幻想郷への組曲』 詩・脚本 川宮史紀仁 氏 インタビュー

世界初となるゲームを主題とするオペラプロジェクト「Opera Dots(オペラドット)」が今冬公演、2021年12月30日〜2022年1月5日の年末年始期間に全世界配信される。その第一弾として「東方Project」のオペラ公演が、2021年12月23日に開催される。通称「東方」は、世界的に人気のある、上海アリス幻樂団によって製作されている弾幕シューティングゲームである。

東方Projectオペラオーケストラ公演『幻想郷への組曲』会場チケットは既に完売現在は、配信チケットのみが販売されている既に日本全国はもちろんのこと、北米、欧州、中国、アジア全域で購入されていると発表された。

2021年10月に情報公開され、人気イラストレーターのヒトこもる先生による、レミリア・スカーレット十六夜咲夜のキービジュアルが公開された。11月には記念音源というフラメンコアレンジの音源、新予告編も同時公開されている。

果たして公演はどのような内容のものになるのか?そして、年末年始に東方オペラを存分に楽しむにはどうしたら良いのか。編集部は、その謎を解くべく、東方オペラで脚本を担当した川宮 史紀仁(かわみや しきひと)先生にインタビューを行った。

世界に響くゲーム音楽は、未来の古典音楽となるのか?」のシリーズ記事としてお送りします。

いわゆるオペラ、ではなく「東方オペラ」として観ていただける作品。東方が好きなら、気軽に楽しめる。

編集:東方Projectのオペラと聞いた時はどのようにお考えになりましたか?

川宮:このオファーがあった時はとても驚きました。「まさか、東方Projectでオペラ?」という気持ちが何よりも早く湧いてきました。これは東方ファンであれば、すべての方が思うことではないでしょうか。しかし同時に「すごく良いものになる」という確信もありました。

なぜなら、皆さんもご存知の通り、名曲が多い。そして、音楽に圧倒的な力があることです東方のストーリーには哲学を感じますし、ZUN先生が主導して制作されているので、方向性が明確です。学生時代から東方ファンの一人だった身としては、「どうなる?」という不安を超えて、「東方のオペラを観てみたい」という気持ちが止まらなくなって、大変光栄なことでしたので、全身全霊で取り組もうとお引き受けしました。

編集:ネタバレにならない範囲でお聞きします。どのような内容になるのでしょうか?

川宮:いわゆる大劇場で、派手な衣装で登場する「オペラ」ではなく、「東方オペラ」というニュージャンルとして楽しめると思います。東方を単にオペラの素材とするのではなく、東方Projectという作品群と、オペラという形式が平等な関係の中で融和したものを目指して書きました

ですから、東方が好きなら、気軽に楽しめると思います。もしかすると、東方を知らなくても楽しめるかも知れません。物語構成もとてもシンプルで、子供でも楽しめるように、おとぎ話や童話をイメージしました。そして音楽と相性の良い言葉を選びました。東方ならではのキーワードも随所に現れます。

自宅でも十分楽しめる臨場感ある映像に、東方生演奏のプロフェッショナルによる編曲。

編集:既に配信のチケットしかないと伺いました。配信を意識した作り方などはされるのでしょうか。

感染症と共存しながらの公演ですので、会場の席数は決して多くありませんでした。ですので、自宅でも十分楽しめるように配慮し、配信にも大変こだわりがあると伺っています。そういった前提で、詩も書きました。

また、映像作家の中島唱太さんが配信映像をご担当されるとのことで、まるで会場にいるかのような、もしかするとそれ以上の臨場感を持って視聴できる、質の高い映像が生まれると思います。

そして、編曲をご担当する松﨑国生先生は、東方オーケストラコンサートの編曲を何度も行われている、東方Projectの生演奏におけるプロフェッショナルです。一ファンとして、ラフ音源を聴くだけでも心が震えますね。松﨑先生の編曲された弦楽四重奏の『U.N.オーエンは彼女なのか?』は、聴いたことのある方が多いのではないでしょうか。安心して委ねられる方です。

オペラというよりは「東方のオーケストラを聴きたい」という気持ちで望まれても、室内楽編成であることを忘れるほどの楽しみがあると思います。

松﨑国生氏が編曲した東方Projectの弦楽四重奏編曲『幻想郷の超絶弦楽四重奏団』『U.N.オーエンは彼女なのか?』
プロデュース:泉志谷忠和 音楽監督:深澤恵梨香 ©上海アリス幻樂団 ©JAGMO

東方の世界観を何よりも大切に詩・脚本を制作。登場人物は「プレイヤー」と「キャラクター」。

編集:制作の時に心がけられたことはありますか?

川宮:何よりも意識したことは、東方の世界観を大切にする、ということです。そのため、ある特定のキャラクターが、特定の言葉を喋る、ということは、思い出や、音楽の邪魔をしそうでしたので控えました。

演出とも関わりますが、本作は、東方全体の世界観を抽象化して物語を進めます。我々の立場、つまりゲームをプレイする側を代表して「プレイヤー」、そして、すべてのキャラクターの象徴である「キャラクター」という二人が主人公です。

編集:「プレイヤー」と「キャラクター」というのはとてもシンプルですね。歌唱を担当するのが二人ということでしょうか。

仰る通りです。歌唱するのは二役、ゲームの世界と現実世界、2つの世界の代表選手のような形で物語が進行します。

素晴らしいお二人、カウンターテナーの村松稔之さんが「プレイヤー」を、メゾソプラノの山下裕賀さんが「キャラクター」をご担当されます。実は、この方に引き受けて貰えれば一番うれしいと思っていたお二人だったので、感激しました。ゲームの「画面」を介し、キャラクターとプレイヤーが対話をしながら、物語が進行します。

Opera Dots 公式サイトより https://operadots.com

「幻想郷」と「スペルカード」「二次創作の活発性」に着目。幻想郷が現実世界に無いとは言い切れない。

編集:東方ならでは、という表現も出てきますか?

もちろんです。特に着目をしたのは「幻想郷」と「スペルカード」の概念、そして「二次創作の活発性」という特徴です。公開前に語りすぎない方が良いと思いますが、現実世界と、幻想郷の世界の「戦い」のあり方の差異については、詩に強く反映されました

編集:人間と妖怪の共存なども面白いテーマですよね。

まさに。現実世界が抱える問題ともリンクをしているように思います。改めて、東方の設定をしっかりと読み解くと、現実社会においても学ぶところがあるように思いましたね。

ゲームから学ぶ、というのは新たな視点ですね。

まさしく、その感覚も本作では重要です。というのも、現実世界にいる我々にとって、ゲームというのは、ゲーム制作者によってつくられた架空の世界です。ただ、同時に、結界が張られた「幻想郷」、つまり東方の世界が現実には存在しない、と否定することも出来ません

なぜなら、人類は、日本をはじめ、地球の隅々までを知り尽くしている、とは到底言えないからです。更に、結界が張ってあるのであれば、今の科学技術じゃ見つけられないかもしれない。もう我々の知らないところで、ゲームの世界を飛び出して、幻想郷はどこかに存在するかもしれません。そんなことを思いながら詩を書いていました。

「オペラ」が難しい、は誤解。東方Projectのオーケストラコンサートを楽しめる方なら、なお気軽に楽しめる作品。

編集:たしかにそのとおりですね。そういった壮大なテーマを考えると「オペラ」は難しいのではないか、と思っている方もいると思いますが。

川宮:難しいというのは、大いなる誤解ですね。(笑)オペラは堅苦しい、難しいと思われがちですが、実はエンターテイメント性が強い作品が多いと言われています。フランスの作曲家、ビゼーの代表作『カルメン』も(きっと聴いたことがある曲です。)まるで、刺した、刺されたの昼ドラのようです。観客も、静かに座っているだけではなく、思わず笑ってしまったり、どよめきが起きたりもします

編集:どよめきですか。(笑)では、オペラの中でも『幻想郷への組曲』はどのような方におすすめでしょうか。

今回で言えば、東方Projectのオーケストラコンサートに行ったことがある方で、コンサートを楽しめた方は、更に刺激的で、楽しみがあると思います。コンサートが初めての方でも、生演奏はこんな響きになるのか、と感動と発見に満ちた時間になるのではないでしょうか。

「オペラ」と気構えなくても、純粋に音楽としての美しさ、雄大さ、奥深さがあります。ですので、どのような方におすすめですか?と問われれば、「東方Projectのオーケストラコンサートを楽しめた方はなおさら楽しめる」とお答えします。

編集:わかりやすいですね。オーケストラコンサートとは異なるポイントとはどこでしょうか。

まず、詩が加わることによって、物語としての解釈の楽しみが生まれます。

そして何より歌唱があります。人間の歌声というのは独特な力がありますから、そこもオーケストラコンサートにはない魅力です。歌声というのは、どうしてああも心に響いてしまうのか、不思議ですよね。

ラストは、期待を裏切らないものになるのではないでしょうか。ご自宅からご覧になられる方は、是非お酒やお飲みものを楽しみながらご視聴下さい

あとは、大変マニアックな楽しみ方ですが、松﨑先生の他のオーケストラコンサートの編曲を知っている方は、「こうきたか」という”通”な楽しみもできると思います。素晴らしい演奏家の方々もご出演されるため、表現の奥深さはもちろん、超絶技巧と呼ばれる、難易度の高い演奏も盛りだくさんです。ご関心のある方は、松﨑先生のご編曲はいくつかインターネットにも上がっているので、是非事前にご視聴下さい。

松﨑国生氏が編曲した東方Projectのオーケストラ編曲『東方永夜抄 〜 Imperishable Night.』より
©上海アリス幻樂団 ©JAGMO


川宮 史紀仁 かわみや しきひと

慶應義塾大学卒業 詩人・作家 


次回は、インタビュー第二弾として、テーマとして掲げられた「人間とはなにか」「この世界とはなにか」といった根源的な問いかけの裏に隠れた意図、より制作の裏側にせまったインタビューをお伝えします。

インタビュー第二弾「人間とはなにか」「この世界とはなにか」という問いかけは、一見難解に見えて、実はすべての人に関係がある身近なテーマ。(後日公開)

公式サイト https://operadots.com
Opera Dots | YHIAISM | イベント | インタビュー特集 | コンサート