起業家 塚原大 インタビュー Z世代グローバル起業家が、新しい価値観『経年美化』で日本の工芸職人たちとアメリカ、そして世界を繋ぐ

Z世代と伝統工芸が、深い繋がりを築きつつある。まさに「承前啓後」、従来の伝統工芸品の魅力を尊重し、また同時に工芸品や職人のファンでありながら、デジタルネイティブとしてECを用いた海外への新たな顧客獲得、国内でも若年層の愛好者創造に寄与するベンチャーが存在する。チームの多くがバイリンガルで、もともと伝統的工芸品産業振興協会で働いていたメンバーもいるほど、チーム全員が伝統工芸品の愛好家であることがユニークな特徴である。

Z世代のアプローチには従来の伝統工芸業界のアプローチに加え、5つの特徴を有している。

① デジタルネイティブ :オンライン化によるあらたな顧客開拓
② グローバル展開:内需のみならず海外市場へ拡大
③ モダナイズ: 技術はそのままに現代の生活様式に適応
④ 手仕事全般への関心:あらゆる工芸技術が対象
⑤ 技術同士の融和促進:技術としてのイノベーション

中でもグローバル展開に圧倒的な強みを持つKASASAGIはこだわり抜いた独自の翻訳方法を有しており、言語化の難しい伝統工芸品の魅力や職人の想いを忠実に日本語化、そして英語化することを目標としている。そんな新たな世代、Z世代のイノベーティブな挑戦について、合同会社KASASAGI 代表 塚原大氏にインタビューを行った。(YHIAISM)

日英バイリンガルチームによるZ世代の伝統工芸ベンチャーが、内需からアメリカ、そして世界を繋ぎ、市場拡大に挑戦する

合同会社KASASAGIの事業について教えて下さい。

英語圏、今は特にアメリカに対して日本の工芸品を届けるECサイトを運営しています。地域としては、カリフォルニアでも特に新しいモノへの受け入れ体制のあるハリウッドやビバリーヒルズ、シリコンバレー、サンタモニカをターゲットとしており、良いものを求める富裕層を狙っていこうと考えています。

もともと英語版のみのリリースを考えていましたが、職人さんたちのお話を伺う中で、日本語のコンテンツは自ずとして生まれるため、先に日本語版をリリースしています。2020年12月に本サービスとなる、英語版のリリースを予定しています。

素晴らしいお取り組みですね。EC以外の事業ポートフォリオがあれば教えて下さい。

ECに加え、toBの事業として、商品開発とプロデュースを行っています。工芸品業界の大手の企業様やビジョンを同じくする企業様のブランディングやウェブ制作、デザインやプロデュースの機会を頂き、お仕事をさせて頂いています。

伝統工芸品の知見と、デジタルやデザインといった両軸の技術を有するKASASAGIだからこそ出来るお仕事ですね。ところで、会社名の「KASASAGI」の由来とは何なのでしょうか。

七夕の織姫と彦星が由来なんです。天の川の橋となる鳥が「鵲(かささぎ)」といいます。職人さんの思いや価値観を購入者の人たちに届ける橋になりたい、そんな思いから「KASASAGI」と名付けました。

OMOISHOPについてはどうでしょうか。

OMOISHOP」は、まさしく「想い」です。ウェブサイトにはこれでもかというほど職人さんのこだわりや想いを書かせて頂いています。各ブランド様のページや、商品にもこだわりもしっかりと掲載させて頂いていて、そこは弊社のこだわりの一つですね。

確かに、製造工程の写真もあったり、長期的な所有に対してのサポートも充実していますね。こういった魅力の可視化や言語化は、工芸品の魅力を伝えるのに重要なポイントになりますね。

はい。伝統工芸品の言語化は非常に難易度が高く、ECでは手にとることが出来ないので言葉が非常に大切です。更に、弊社の場合は海外顧客開拓も重要なミッションですので、それを翻訳する、ということが必要なので、更に言語化の難易度は上がります。

工芸品の魅力を言語化、更に翻訳する技術。手仕事をデジタルで伝え、海を越えた購入者へ届けるためのローカライズ戦略。

例えば、「木の温かみ」も翻訳する上で難しい言葉です。工程としては、まず、英語がわかる日本人が抽象的なニュアンスごと日本語を英語に翻訳します。弊社のチームは5人全員が英語を喋れ、更にネイティブのオーストラリアやアメリカ人も参画しています。

ネイティブの皆さんは実際に僕が日本語を教えていた、日本語のニュアンスがわかる外国人です。彼らのような日本語がわかる英語を話す人が、ネイティブに伝わる言葉に調整し、伝わる言葉に翻訳しますその二段階のやり取りの中で表現を尖らせ、購入者の皆様に魅力を伝えていく。多くの事業者様で苦しまれているところが翻訳ですので、グローバルチームならではの弊社の強みと言えるかもしれません。

二段階での翻訳とは、徹底していますね。

はい。地の利として、カリフォルニアには強い繋がりがあります。よく言う「海外に展開する」とは、抽象的で広すぎると我々は考えています。それは、日本にいる私たちが「アジア」と言っても広いと感じるのと同じことで、日本には日本の売り方があります。弊社は最初のフェーズはカリフォルニアでの顧客獲得戦略を重視しています。アメリカにフォーカスしているので、日本国内ではなくアメリカにサーバーを設置し、長さの単位も「cm」ではなく「inch」を使い、アメリカ英語を用いて翻訳しています。

英語版をつくれば海外展開になるということではありません。アメリカから日本のページにアクセスしてものを買おうとするとなかなかページがひらかないことがよくあります。なぜなら日本にサーバーをおいているからです。2、3秒かかると70%が離脱する、とも言われていますので、対象となる国、アメリカにサーバーを置いている理由は最適化です。更に、もし時間をかけてページがひらけても「cm」で表記されていたら、更に離脱率は上がります。テクニカルですが、職人さんの想いを伝えるためにも、売るための仕組みにもこだわりを持ちたいので、ローカライズを徹底しています。

「本物は使えばつかうほど良くなる。本物は出来たときが一番悪いんだよ。」カリフォルニアで共感を生んだ「経年美化」というコンセプト。

素晴らしいお取り組みですね。最初の都市にカリフォルニアを選ばれた理由は何なのでしょうか。

普通ならフランスやヨーロッパのほうが伝統工芸品という価値観として受け入れられやすいと考えると思います。我々は、工芸品の魅力はもちろんですが、「経年美化」(時が経てば経つほど古くなったり劣っていくのではなく、より良く、美しくなるという考え方)という価値観を広げていきたいと考えています。この価値観にたどり着いたのにはいくつか理由があるのですが、ある職人さんに「本物は使えばつかうほど良くなる。本物は出来たときが一番悪いんだよ。」と言われたことがきっかけでした。

起業前、カリフォルニアのビジネスコンテストに伝統工芸品のアイデアで出場したことがあるのですが、その時に「経年美化」のコンセプトがとても受けがよいという発見がありました。日本の「伝統工芸品」への興味のみならず、「経年美化」という価値観が自体がクールで共感が出来ること多くの方々からフィードバックをもらいました。そもそも、カリフォルニアは沢山のスタートアップが生まれる地域で、考えや思想に柔軟なので、新しいものを受け入れやすい風土があります。そのような体験から、僕たちも「日本の工芸品を世界に広げる」という基盤はありながら、「経年美化」という価値観の共感を広ることを大切にしています。カリフォルニアを最初の重点地域に設定した背景にはそういう理由があります。

「経年美化」についてですが、塚原さんも何か使い続けているものがあるのでしょうか。

もちろんです。実は、この事業をやる以前、もう10年ほど前から同じ象革の財布を使い続けてきたんですが、その経験も「経年美化」にたどり着くきっかけとなりました。起毛しているのでとてもさわり心地がよく、使っていくと光沢が出てどんどんと育ってきます。それがもう、ものすごく好きで。払う度になんて良い財布なんだ、と思って使っています。小さいことだけれども、払う度にわくわくさせられる。払う度にいい財布だな、と思わされる。自分の心を満たしてくれてる。ずっとお気に入りものとして持っていたのですが、職人さんから「本物は出来たときが一番悪いんだよ。」と言われた時に全てが腑に落ちた背景がありました。

原体験と職人さんとの対話で腑に落ちた価値観なんですね。職人さんとの頻繁にコミュニケーションを取られている印象がありますね。

職人さんとは色んな話をしますね。工芸の従事者は、50代から60代がメインだと言われていますが、職人さん含め色んな方々から教わっています。例えば「伝統を継承する」というと堅苦しいですが、どういうところから「継承」なんだろう、と職人さんたちと東京で集まり話し考えたことがありました。

「継承」は仰々しく「語り継いでいこう」というものではなくて、近所のお姉さんがきれいな髪飾りをつけていて、憧れて、そのきれいな髪飾りをかった、とつながっていくものだとある職人さんが仰っていました。つけているものが可愛いとか、憧れの人がつけていたから、というものが継承の根幹なんだよ、と仰っていて、大切な気付きを頂きました。

Z世代に広がる「経年美化」や「エシカル」の共感。大量消費大量生産と「経年美化」が共存する次世代への貢献。

同世代の方々とのコミュニケーションについてはどうでしょうか。

実は面白い変化が起きています。「経年美化」の話をすると、友達は、高級ブランドがよく見えなくなったと話していました。「経年美化する素材のマウスパッドを買った」という友人がいたり、「ブランドものに魅力を感じなくなった」と言っている人もいます。中には、とても若い19歳の子が(弊社が)販売する草履を買ってくれたりもしている。他にも、包丁を購入してくれたのも、高校生の方でした。若年層に対して、経年美化の広がっていっている実感を持っています。じわじわと、そういう人たちが増えてきている印象です。

幅広い世代とコミュニケーション出来る塚原さんだからこその事業なのかもしれませんね。長期的なビジョンについても教えていただけますか。

大きくは、消費のあり方を変えたいと思っています。それは決して、大量消費大量生産の否定ではなく、僕自身も正直百均の商品は好きですし、実際に使っています。ただ、それだけではなくて「経年美化」する使えば使うほどよくなるものと、値段が安くて使い勝手の良いものたちとは、共存できると思っています。

手軽でコスパの良いものを使いつつも、日常に一つ、本物を持っている。最初の一歩はそこから、価値観を広げていきたいと考えています。これは、大きな展望になりますが、未来に、大量消費大量生産と経年美化のものとが半々くらいになれば、世界の消費のあり方が変わると思っています。

SDGsや環境問題に対する世の中の潮流とも関係してきますね。

僕たちはあまり意識はしていなかったのですが、サステイナブル(持続可能性)だから、とか、長く使いたいという目的で買ってくださる方は多くいらっしゃいます。自分たちの世代では、グレタさん(環境活動家 グレタ・トゥーンベリ氏)が演説で世界を動かしましたし、時代の変化を感じています。もともとアメリカの大学に通っており、エシカルコンサンプション(エシカル消費)についても学びましたが、これからそういった言葉が中期的に日本の教科書に載って、10年から20年かけて消費のあり方が大きく変化していくと我々は考えています。

その窓口として日本の工芸品、というものとしての考え方もあると思っています。工芸品を広げていくためにも、工芸品を売る、だけではなく、そういった工芸品を取り巻く可能性を繋げ、共感を広げていくことを意識しています。

仕事を超えて伝統工芸が「好き」職人の皆さんとの交流、キャンピングカーで日本各地へ

伝統工芸を事業化する際、なかなか職人さんとコミュニケーションが取れない、信頼をいただけない、という話を聞きますが、塚原さんが意識されていることはありますか。

社長が自ら足を運んでいるところは少ないと思います。そして、何より自分たちのチームは皆工芸品が大好きです。仕事でいく場所も、元々ここを知っていたとか、旅行で工芸品まわりで行ったことがあるとか、そういう話に頻繁になります。なかでも伝統工芸品組合で働いていたメンバーは現場経験も豊富で伝統工芸品の組合で働いていました。現場経験も長く、職人さんとも顔見知りで、文化性をよく理解している。彼女には助けられています。

そんなチーム皆でキャンピングカーを借りて長野の山奥まで行ったりもしています。そこで仲良くさせて頂いて、郷土料理をご馳走になったりもしています。本当に職人さんたちに可愛がってもらい、よくしてもらってる。もう頭が上がらないですね。

こうして本当に工芸品が好きな若者の方々に来て頂けると職人さんも嬉しいでしょうね。

どれだけ工芸品が好きか、というところが伝わっているのかな、と思っています。万一、僕が破産してしまった時には、そこに弟子入りしようかなと思っているくらいです(笑)


塚原大 Dai Tsukahara
合同会社KASASAGI 代表取締役

 2000年6月21日生まれ。 大阪の高校を卒業後、アメリカ・カリフォルニアの大学へ進学。進学後アントレプレナーシップを専攻しつつ合同会社KASASAGIを設立し、OMOISHOPをリリース。 その後コロナウイルスにより日本に帰国し、帰国後は教育系インフルエンサーと共に学習プラットフォームringを開発する。